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「〈意図〉を〈メッセージ〉に変換する」--コミュニケーションを企画するプロセスの中で、もっともエキサイティングな場面です。そのとき--最後の最後に必要な能力は、「直感力」です。

〈メッセージ〉を作るということは、すなわち--「何を伝えたいのか、誰とどんな関係を築きたいのか」という〈意図〉を受けて、それを〈メッセージ〉という形に変換(コンバージョン)する--ということです。
 
◇「言いたいこと」と「伝わること」の間
 
自分の「言いたい」ことをストレートにポンと伝えても、素直に相手に「伝わる」とは限りません。
と言うよりも--ほとんどの場合、コミュニケーションは失敗します。
 
Aさん 「こんなに一所懸命伝えているのに・・・」
Bさん 「それは、あんたの勝手でしょ?」
 
大事なコミュニケーションであればあるほど、相手のいろんなことを想定して、伝え方、話し方、対話の方法などに知恵を絞るはずです。
 
  ・どんな言い方をしたらいいだろうか?
  ・どんな順番で話せばいいだろか?
  ・この単語は知っているかな? 誤解されないかな?
  ・どんな例え話をしようか…
  ・今は話をしてもいいタイミングかな?
 
「言いたいこと」と「伝わること」の間には、大きな“溝”があるのです。
だからこそ、「言いたいこと」から「伝わること」への変換が必要なのです。
 
◇メッセージ変換と直感力
 
組織のコミュニケーションでも同じです。
 
ターゲットをイメージしながら、〈意図〉をどのような〈メッセージ〉に変換していくか--これを考えることが、コミュニケーションを企画するときの最重要ポイントになります。
 
「メッセージ・メイク」--企画会議などで、議論が最も伯仲するのは、この段階です。
オリエンテーション、意図の説明と議論・理解、リサーチ結果の共有、ブレスト……、大変なプロセスですが、一番楽しい場面でもあります。
 
そして、議論に議論を重ねて、検討に検討をし尽くして、最後の最後の段階で「よし!このメッセージでいこう!」と結論が出る・・・この場面が、実に面白い。
だいたいの場合(特にうまくいった場合には)、結論は--「ポッ」という感じで出てきます。
 
最後の最後は、まったく論理的ではありません。
その「瞬間」は--まさに、「ポッ」という感じです。
 
そして、会議に参加したメンバーのほとんどは、「ま、そんな感じやね」と。
理屈はよく分からんけど、その結論に共感し、納得している。
 
複雑系というか、右脳的というか、潜在意識というか--とにかく「直感」の世界だと思います。
 
さて、そこからが大変です。
 
企画会議に参加したメンバー以外の人たち--お客さま(クライアント)や、会社の上司など--に対しては、論理的に説明しなければなりません。
結論が出た段階では、明確な理由はない--というよりも、うまく理由を説明できない状態なわけですから、そこから逆に、論理を積み“下げて”いく必要があるのです。
(先に「結論ありき」ですから、論理は、積み“上げる”のではなく、積み“下げる”になるわけです)。
ここから先の仕事は--“力仕事”(?)ですね。
 
◇メッセージ誕生の瞬間
 
以前、私の参加したプロジェクトで、こんなことがありました。
 
ずいぶん前--1990年前後のことで、クライアントは外資系の大手メーカーです。
日本市場でのコミュニケーション計画を立案し、実行に移す、というプラン。
 
およそ半年をかけて、さまざまな対象にリサーチを実施しました。
企業ユーザー、自宅ユーザー、流通業者、専門ディーラー、新聞・雑誌の編集者・記者などなど・・・。
リサーチ結果を中間報告し、基本メッセージの検討に入りました。
この段階で、すでに半年近くが経過していました。
 
しかし、そこからが大変だったのです。
侃々諤々、ああでもないこうでもない・・・。議論に議論を重ねても、なかなか結論がでてこない。
プレゼンテーションの締め切りは迫ってくる。
焦れば焦るほど……頭の回転は悪くなる、会議では怒鳴り合いになる……。
 
ついに--プレゼンの日が来てしまいました。
メッセージ案は--できていません。
 
最後の最後のドン詰まり--プレゼン当日の、クライアントのオフィスに向かうタクシーの中--営業担当(プロジェクトリーダー)は、プランナーを中心にした主要なチームメンバーを缶詰にして……、
「頼む! 後生だから、メッセージ案を考えてくれ! 何でもいい。ひねり出してくれ!」
 
道中は--約1時間。「う~ん。う~ん」、唸るばかり・・・・・・。
 
やがて--30分が経過したころ、その瞬間がやってきました。
誰かが、ふと、漏らした何気ない言葉に反応して・・・、
プランナーが、「あ? これかな・・・」と・・・。
彼は、サインペンを持つとスケッチブックにサラサラと・・・何かを書きなぐり始めました。
それを見ていた私たちは・・・、「お~っ! これだ!これだ!」
 
メッセージが--産み落とされた瞬間でした。
 
カッコいいデスクトップ・プレゼンテーション--なんて、準備する時間はありません、
残りの30分を使ってタクシーの中、スケッチブックにガシガシと手書きで、それっぽい理屈を書き連ねていきました。
 
クライアントの会議室で、社長を前にしてのプレゼンテーション。
道具は--スケッチブックだけ。
 
営業担当者曰く、
「われわれは、およそ半年間、議論に議論を重ねて検討し、準備を進めてきました」
(ホントはタクシーの中の1時間)。
 
説明しました。
論理展開は?--まったく不十分です。
情熱だけです。とにかく、熱っぽく語るだけです。
 
30分--も経過しなかったと思います。
それまで黙って聞いていたクライアントのCEOが、突然立ち上がって--
「OK! これで行こう! ありがとう!」と、握手を求めてきたのです。
 
「えっ?」--私たちは、あっけに取られたまま、右手を差し出していました。
がっしりと、握手--だんだんと、喜びが沸いてきました。
 
CEOは、若い頃のジャック・ニコルソンに似た強面の、カナダ生まれのアメリカ人でした。握手をしてニッと笑うと、キューピーに似ていました。

・・・・・

いつもこんな状況なわけではありません。
これが日常だったら、身が持ちません。
しかし、メッセージ誕生の瞬間というのは、こんな感じです。
 
後日談ですが、この基本メッセージは、日本発でワールドワイドに展開されることになりました。現在でも使われています。
(守秘義務があるため具体的にはお伝えできません)。
 
メッセージ・メイク--大変な作業ですが、コミュニケーションを企画するプロセスの中で、一番楽しく、もっともエキサイティングな段階です。

(芝)